シンプルな発明について特許をとるのは難しい?
シンプルな技術でも特許はとれます
皆様は特許権がとれそうな技術としてどのようなものがあると思われますか。
医薬品は開発費が非常に高額であることから、模倣品被害にあわないように新薬は特許権で保護されていることが多いですね。最近では、人工知能(AI)を利用した発明について特許権で保護しようとする動きが活発なようです。
しかし、そうした先端分野の複雑な技術ばかりが特許権で保護されるわけではありません。
ルアー(疑似餌)を例に
最近、面白いと思った魚釣用のルアー(疑似餌)にマドタチさんの「ギミキン」というルアーがあります。私も個人的に何個か買い求めました。このルアーは3つの特許技術を実装しています。以下では、そのうちの一つの特許を登録例として取り上げたいと思います。
ルアーについて
釣りをされない方には、馴染みが薄いと思います。ルアーは、木材やプラスチックなどの素材で作った偽物の餌のようなものです。いろいろな形のものがありますが、大型魚の餌になる5~15cm程度の大きさの魚を模した形状のものなどがあります。
釣りをする際には、釣り竿にリール(糸巻装置)をセットし、リールから巻き出した釣糸にルアーを結びつけて、釣り竿を使ってルアーを水面に向かって放り投げて使用します。リールで釣り糸を巻き取ると、ルアーは釣り糸に引っ張られて、水中や水面を魚のように泳ぎます。魚を餌ととして捕食している大型魚などは、ルアーを餌だと思って、あるいは威嚇行動で、捕食するというわけです。ルアーには釣り針が取り付けられており、大型魚の口にルアーの針が掛かります。
ギミキンの特許技術

ギミキンの発売前にすでに販売されていたルアー

ギミキン(側面から撮影)

ギミキン(上方から撮影)
上の黄色のルアーがギミキンが発売される前に、販売されていたルアーです。
下のシルバーのルアーが今回説明する「ギミキン」という名前のルアーです。
上のルアーと下のギミキンとを比べて、違う部分があるのがわかりますか?そうです。胸ビレの部分がでっぱった形状になっていますね。実はこの部分が特許に関係する部分です。このルアーの胸ビレは、以下の写真のように、三段階に角度を変えることができるようになっています。具体的には、胸ビレは、軸によってルアーの側面に時計回り又は反時計回りに回転できるようにとめられおり、ばねを利用したワンタッチのロック機構で、胸ビレの位置を三段階の異なる角度で固定できるように工夫されています。



技術的な効果
ギミキンでは、胸ビレのロック機構を利用することで、胸ビレの位置を三段階に変えてその位置を固定することができます。上の写真の一段目から順に、「表層」、「中層」、「深層」とします。ルアーを使うときは、リールで釣り糸を巻き取ることで、ルアーを引っ張って水中を泳がせます。ギミキンでは、胸ビレの角度を変えることによって、ルアーが受ける水の抵抗が変わりますね。上の写真の「表層」の位置に合わせると、ルアーは水面近くの表層を泳ぎます。上の写真の「中層」の位置に合わせると、ルアーは表層より水深の深い深層を泳ぎます。上の写真の「深層」の位置に合わせると、ルアーは中層より水深の深い深層を泳ぎます。

魚は、その日の水温や気圧などによって、好む水深が異なるといわれています。単純化すると、従来のルアーでは、表層、中層、深層の各水深にいる魚を釣るには、複数のルアーが必要になります。 ギミキンでは上記のような胸ビレの角度のロック機構を利用することで、一つのルアーで表層、中層、深層の各水深にいる魚の目の前にルアーを通すことができます。釣行の際に多くの荷物を携行すると疲れやすくなるので、荷物はできるだけ減らしたいものです。一つのルアーで多彩な釣り方ができれば、釣り場に持っていくルアーを減らすことができます。
まとめ
上記のギミキンの場合、構造そのものは複雑ではなく、どちらかというとシンプルな構造です。しかし、胸ビレ周りの構成は新規なものであり、従来のルアーにはない技術的な効果を持っています。
特許を取得するには、構成が新しいものであり、その構成に基づいて、技術的な効果が得られる場合は、特許権となる可能性を秘めています。シンプルな構成だから特許にならないだろうと簡単に諦めずに、従来にはない技術的効果を発揮する製品、サービスを開発したときは、ためらわず特許取得を検討してみてください。
構成がシンプルな発明は、販売された商品を見れば簡単に構造を分析され模倣されてしまいます。シンプルな発明こそむしろ特許権で保護する必要性があります。